私は天使なんかじゃない
善と悪の二元論
有史以来、善と悪の戦いは続いている。
決して終わることのない戦い。
人は過ち繰り返す。
「無人とはね。あんたには恐れ入ったよ、Dr」
薄暗い工場内。
全身を防護服を着た数人が歩いている。8人。生身が露出している部分はなく、顔の視界の部分も反射フィルム仕様なので、顔も見えない。
その内の7人はアサルトライフルを手にし、Drと呼ばれた人物は何も持っていない。
ここはDC残骸にあるタコマ・インダストリィの廃工場。
かつてはスーパーミュータントの支配下にあった。そしてそれを奪うべくタロン社の部隊が攻撃していた、激戦区の一つ。
タロン社は傭兵会社。
しかしそこらの傭兵団が格段に規模が違い、最盛期(ボルト101からミスティが這い出してくる直前まで)には小国ほどの軍事力を誇っていた。エンクレイプ襲来までは最大勢力の規模の
勢力だった。キャピタルBOSは現地人を志願兵に迎え入れてはいたがOCが別派したりとしていた為、タロン社の規模には届かなかった。
規模が大きければ大きいほど維持に金が掛かる。
その為、タロン社はスカベンジャーもしていた。
議事堂等でスーパーミュータントと戦争をしていたのもその為だった。
「で? どうするんだ? ここで先遣隊の報告を待つか?」
「……」
一同立ち止まる。
Drと呼ばれた人物は何も言わず周囲を見渡した。
特に目ぼしいものは何もない。
スーパーミュータントがDC残骸に押し出していた理由を知る者は誰もいない。何故ここを制圧していたのか、それを知る者はいない。ジェネラルという種を作ってキャピタル・ウェイスト
ランドにいたスーパーミュータントを支配下に置いていた、ボルト87を拠点としていたカルバート教授ですら憶測でしかその理由を知らなかった。
教授曰く、植えつけられた首都防衛の任務をしていた、という。
だが実際は違う。
「少佐」
Drは呟く。女性の声だ。
「何だ?」
アサルトライフルの一団を従えている人物はタロン社。
リック少佐。
ジェファーソン記念館の最終決戦の際に最高司令官だったカール大佐が姿を眩ました為、タロン社は支離滅裂となり四散した。とはいえ戦って全滅したわけではなく、それぞれの部隊の
指揮官は戦力を温存する形で撤退した。その後は自分の部隊を従え、独立。タロン社をネームバリュー的に使ってはいたが組織は完全に崩壊していた。
リック少佐も部隊ごと独立した指揮官の1人。
現在はこのDrと呼ばれている女性に雇われている。
「何故ここにスーパーミュータントがいたと思う?」
「遺物があるからか? 実際、連中が進出して制圧してたDC残骸には金目の物があったよ。とはいえ連中に金が必要とも思えんな。DC7不思議の一つだな。何でだ?」
「連中はFEVに惹かれる」
「何だそりゃ?」
「それを求めて連中は進出していた。そして私の望みも……」
ザー。
ノイズ音がその時した。
少佐の部下の1人が持っていた無線機のノイズだった。少佐はそれを受け取り、Drに手渡した。立場上、彼女が雇い主であり、ボスだ。無線は先に工場の地下に潜行していた先遣隊からの
報告だった。Drは無線から響く声を無言で聞き入り、それからスイッチを切った。
無線機を少佐に手渡す。
それから低く、楽しそうに呟いた。
「見つけたわ、ボルトの残骸を」